ALSと閉じ込め症候群
こんにちは,バーチャルサイエンティストのRueです.
ALS(筋萎縮性側索硬化症)って病気,皆さん聞いた事がありますか.
身体の筋肉が徐々に動かなくなって,最終的には身体を一切動かせなくなり,意識だけ保ったまま身体に閉じ込められてしまう,閉じ込め症候群に至ってしまう恐ろしい病気です.
閉じ込め症候群になってしまったら,口や手はおろか,目線すらも動かせなくなってしまうので,一切他人とのコミュニケーションができません.
他人とコミュニケーションをとれないまま,ただ介護されるだけの存在として一生を孤独に生きることになってしまいかねいと考えると,下手すると死ぬより怖いって考える人もいるのではないのでしょうか.
しかしつい先日,脳科学の最新技術を用いることで,この閉じ込め症候群になってしまった患者とコミュニケーションをとることができたという報告が,有名学術雑誌,Natureから発表されました.
今日はこの,閉じ込め症候群の患者の脳とコンピュータをつなぐ脳科学技術,Brain Machine Interface(BMI)について分かりやすく解説しちゃいたいと思います.
手も口も身体も目線すらも動かせない閉じ込め症候群の患者と,一体どんな方法を使ってコミュニケーションを実現したのかを分かりやすく理解できるようになりますので,是非最後まで見てみてください.
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ALS・閉じ込め症候群とのコミュニケーションの研究のポイント
それでは,早速今回の論文を解説していきましょう.
今回の論文のポイントずばり,視線すらも動かせなくなったALS患者とのコミュニケーションに成功したという点です.
っていう点です.
元々,ALSになってしまった患者さんとのコミュニケーション手段の確立ってのは,ずっと昔から研究されているのですが,そのほとんどは,視線の影響を大きく受けるものだったんです.
以前紹介したP300 spellerやSSVEPといった脳波を使った文字入力の研究も視線が必要でしたね!
というわけで,これまでの身体を全く動かせなくなってしまったALS患者とのコミュニケーション手段は視線を何らかの形で使ったものが主流だったのですが,ALSが進行していくと最終的には視線の動きすらも動かせなくなってしまうので,現状,視線すらも動かせないALS患者さんとのコミュニケーション手段は皆無だったんです.
そんな時に,今回の研究では,脳科学技術を用いることで,実際に視線すらも動かせなくなってしまった患者とのコミュニケーションに成功した,まさに閉じ込め症候群の患者さんの生きる希望になる技術なんです.
ALS・閉じ込め症候群とのコミュニケーションの研究の仕組み
それではこの視線すらも使わず,閉じ込め症候群になってしまった患者とのコミュニケーションを確立させた技術の仕組みを解説していきましょう.
今回技術では,被験者からの反応を脳から直接受け取ることで,身体を全く動かせないALS患者からの反応を得ることが出来ています.
実は,ALSで身体・筋肉が動かせなくなったとしても,脳の運動に関わる領域は通常通り活動していることがあるんです.
その特徴を使って,被験者の脳に直接電極を埋め込むことで,閉じ込め症候群の患者の反応を確認することが出来たわけです.
コミュニケーションの手段としては,こちらから,患者さんに対しては,音声で伝え,その回答が,はいの時は,神経細胞が活動し,いいえの時は神経細胞が活動しないという形を取ることで,確認が出来たわけです.
しかもしかも,実現したのはYes・Noの二択に答えられるってだけでなく,自由作文も実現したんです.その方法はこう
例えば,アルファベットのA B Cをグループ1, D E Fをグループ2, G H Iをグループ3とし,Eの文字を入力したいとします.
この時被験者に,
いいえの返答(神経細胞が活動しない)が帰ってくるので,今度は入力したいのはグループ2ですかって聞きます.
そうすると,入力したい文字Eはグループ2なので,被験者は はい の反応(神経細胞活動あり)を返すことになります.
これができたらあとは同じように,グループ2の文字を一文字ずつ試してみて,どの文字を入力したいかを特定していくわけです.
実際の様子がこちら.
元動画は元論文のsupplementary
この動画の高い音は神経細胞の活動がある,つまりYesという反応を示し,低い音はNoの反応を示していました.
文字の入力速度的には,1分当たり約1文字,と健康な人から見ると,非常にゆっくりとしたスピードでしか会話することができません.
しかし,どんなにゆっくりであっても,これまでの閉じ込め症候群の患者が一切のコミュニケーションができないことを考えると,非常に大きな一歩となる研究なんですね.
ちなみに,自由作文では,頭をまっすぐおいてほしいという言葉や,手をお腹の上に載せてくださいといった,患者さんの介護に関する情報が多く述べられており,例え閉じ込め症候群になったとしても,一方的に介護されるだけではなく,自分の要望を伝えられるっていうのは注目すべきことですよね.
また,被験者が作成した文章の中には,妻や子供・そして研究者への感謝の言葉や,子供に対して,一緒に映画を見ないかといった提案もあったそうです.
これらの言葉は,閉じ込め症候群となった患者さんは勿論,その家族も人生の質が大きく向上する可能性があるものであり,それが実現したってことは本当に喜ばしいですね.
現状では,身体も視線も使わない閉じ込め症候群患者の文字入力速度は1分間に1文字程度ですが,今後技術が改良していけばもっと快適に閉じ込め症候群の患者さんとのコミュニケーションを取ることができるようになるかもしれませんね.
まとめ
っていうことで今回は,身体も指も目線すらも動かせなくなってしまう閉じ込め症候群の患者さんとのコミュニケーションを,最新の脳科学の成果を用いることで実現したって研究を紹介してみました.
コミュニケーションが全くできないのと,ゆっくりとでも可能なのとでは,生活の質に雲泥の差があるので,ALSの患者さんにとってはまさしく希望の光と言える研究ですね.
脳科学技術が発展することで,救われる人間がいることは間違いないと思うので,これらかもどんどん脳科学の分野を応援していきたいですね♪
今後も,このブログ・YouTubeでは,最新の脳科学技術や役に立つ心理学の情報を発信していきますので,今日の記事・動画に共感できた人,脳科学・心理学に興味がある人は是非チャンネル登録をして次回の更新をお待ちください.
それでは今日はこの辺で,また次回の記事でお会いしましょう.
ばいば~い.
元論文: